》音の窓から vol.1

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青柳拓次 / まわし飲み (新品CD) ¥2700 在庫切れ

61lXM6tBnIL.jpg1. まわし飲み 
2. 唐津
3. つきのにじ 
4. 安里屋ユンタ
5. 我にやさしくあれかし
6. 都節
7. 赤縞 
8. 猫空(まおこん)
9. その悲しみをしっている
10. ここにある旅 
11. 銀の月の下で
12. おりがみ動物園
13. 今日が終わるころに 
14. 合いの手

 旅する音楽家、青柳拓次が唐津、尾道、台湾などでの出会いや風景を綴った本人名義によるソロ2作目。前作「たであい」が「静」とすれば今作は「動」。簡素で美しい詩の世界はそのままに、ドラムや太鼓、お囃子の賑やかなリズムとアジア的な節まわしや旋律が懐かしくもユーモラスに響く。沖縄民謡「安里屋ユンタ」、明治/大正期の反骨の演歌師、添田唖蝉坊の解釈も見事です。

『音の窓から』vol.1

柳拓次 インタビュー

「苦くて濃いけど何か壮快、抹茶のような新作をまわし飲み」

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オトノマド不定期企画「音の窓から」第1回目は、本人名義としては3年振り2作目となる「まわし飲み」をリリースしたばかりの青柳拓次さんをお招きしてあれやこれやと聞きました。

トノマド店主(以下、オ)
青柳拓次(以下、青)   

「やあ、青柳君、久しぶり。何飲む?」
「えーと、じゃあ、ニルギリを」

「前作から3年も経ってるんだね、全然そんな気しないけど....」
「そうだね」
「このタイミングってのは?」
「うん、結構早く録りたくてしょうがなかったんだ、前作の静かな感じから一転
   してっていうのが頭にあって」
「へえー、じゃあ、初めから賑やかな感じにしようってのがあったんだ」
「そうそう。そういう感じも好きだからさ。それで前のアルバムのライブとかや
   りながら曲を作り始めて。で結構、レコード会社決めたりとかそういった事に
   時間がかかちゃって(笑)。まあその間に歌詞を書き変えたりとか、時間が沢
   山使えたのはよかったんだけど、気持ち的には早く録りたいってのが実はあっ
   た(笑)」

「録音はいつから?」
「えーと、1年くらい前からで、それもメーカーがまだ決まってない段階から録
   り始めて。それはね、このアルバムに入っている台湾のアミ族っていう部族の
   スミン君っていう人がいて、写真家の若木信吾くんが撮った彼のドキュメンタ
   リー映画のプロモーションで来日するってことで、これはチャンスだと思って。
   その前にも台湾でご飯ごちそうになったりしてたんだけど来るっていうから、
   これはもう始動しなっきゃって(笑)そこから始まったって感じかな」

「スミン君って人は?」
「えっと、台湾にアミ族って部族がいて、台湾って沢山の部族がいる島なんだけ
   ど、それぞれに色んな音楽があって。エニグマの「リターン トゥ イノセンス」
   って昔ヒットした曲知ってる?独特のコーラスが入るやつ」
「うんうん」
「あれ、アミ族の音楽なんだ。スミン君って人は若手のリーダーみたいな人なん
   だけど、ミュージシャンであり、映画も撮っていて。彼の映画が去年台湾で賞
   を取ったんだ。それで、元々差別されてたような部族からそういう人が出たっ
   て大ニュースになって、今ヒーローみたいになってるんだよね」
「へえー」
「普段はトーテムっていうバンドをやっているんだけど、彼のソロってのが凄い
   良くて、フォークっぽい感じにコーラスが入ったり笛が被ってたりして。その
   土地の物がちょうど良いさじ加減で入っているアジアのフォークミュージック
   って初めて聞いたんだよね。それで、「ああ、こういう人いるんだー」と思っ
   て。ヨーロッパは結構移民の人が集まっていて洗練されたフォークミュージッ
   クってあるじゃない、パリとか。アジア圏でそういったもので自分が楽しめる
   ものってのがなくて、まだ純粋な民族音楽の方が聞けるっていうか」

「あのコーラスの感じってアジアっぽくないよね。知らなきゃどこの国だろうっ
   て」
「うん、近くの沖縄とも全然違うし、逆にハワイとかバハマとかトンガとか、よ
   く分からないけどそっちの方のハーモニーに近いのかも。島の明るい和声って
   感じ」
「うんうん」
「それで台湾行ったら凄い好きになっちゃて。音楽と日本人好きな人も多いし、
   沖縄と近いせいかフワーとした感じもあったりして」
「『マオコン』って曲がそうだよね」
「そうそう、すごいお茶所があって。そこであった事を歌詞に書いたんだけど。
   そこには24時間お茶を飲める所があって、若者が晩ご飯の後に集まって夜通
   しおしゃべりしたり」

「アルバムに参加している木津茂理さんって人は?」
「木津さんは、3歳から舞台に立っている純邦楽の人で、締め太鼓と平太鼓って
   いうのを叩きながら立って歌うっていうスタイルをはじめた人。細野(晴臣)
   さんの環太平洋モンゴロイド ユニットに参加したりもしてるんだけど。それで
   細野さんの東京シャイネスと一緒にライブをした時に、木津さんも参加されて
   て、この人凄いなって。自分の持ってた邦楽の太鼓のイメージとはだいぶ違っ
   て。例えばお弟子さんと6、7人で太鼓を叩きながら歌ってるの見ると、なん
   かバイーアのオロドゥンとか、ああゆう感じなの。こんなリズム日本にあるん
   だって、シンコペーションとかボコボコ出てくるし。でスミン君じゃないけど
   ビックリしちゃって。こんなカッコイイ人いるんだって、ましてや日本の音楽
   だし」

「へえー、じゃあそういった出会が「たであい」とか「まわし飲み」のアジア的
   な感じに繋がっていったのかな?」
「その二人と出会ったのは「たであい」の後で、それまではリスナーとしてアジ
   アの音楽を聞いてたんだけど、いわゆるアジアの民族楽器がフォークのフォー
   マットの中で普通に組み込まれているものって中々なくて 、そういうのが必要
   かなと」
「じゃあ自分がやろうと」
「うん、アジアの楽器があって、なおかつ弾き語り。それでギターはいわゆる英
   米のスリーフィンガーとかじゃなくて色んな国の弾き方を使うっていう。なん
   か新しいアジアのフォークミュージックってのになったらいいんじゃないかな
   と、それが「たであい」になって、その後木津さんとかと知り合って更に深ま
   っていったというか」

「『たであい』はアジアの楽器が使われてはいるけど、歌の部分は基本的にフォ
   ークミュージックのスタイルだよね、でも「まわし飲み」はメロディとか歌い
   方にもすごくアジア的なものが現れている。そういった変化は意識しての事な
   のかな?」
「うーん、自然とそういう風になってったんだろうね。僕等の世代はパンクやガ
   レージに始まってジャマイカやブラジルの音楽、テクノとか色んな物をひと通
   り聞いてきたけど、そういうのがちょっと落着いたっていうか。あと海外に色
   々行った事も強いのかもしれないけど、アジアの人の出で立ちとか姿形が凛と
   した素敵な感じに見えるような、そういう音楽ってのが必要だってすごく思っ
   た、その思いが強かったんだと思う」

「あえて「日本」ではなく「アジア」っていうのは?」
「うーん、日本固有のものだけを追求するってのもありかもしれないけど、どう
   してもボーダーミュージックってのが好きだから(笑)やっぱり音楽の中にあ
   るユートピアって楽しいから、趣味というか嗜好が出ちゃう」
「そうだね、やっぱり青柳君がやるとただ普通に邦楽やりましたって感じではな
   い。歌はこぶしが効いてるのにリズムはラテンっぽかったり、「安里屋ユンタ」
   なんかは沖縄の音楽だけどフォークミュージック的なアレンジだったりとか。
   やっぱりそういうのは意識しているのかな?」
「何かフレッシュさが欲しいんだよね、自分が出来る音楽って考えたときにそう
   いう瑞々しさは組み合わせとかで出せるなと思う」
「今回のアルバムはアジア的な部分が強く出たことで、より無国籍度も高まった
   ようにも感じるんだ。これどこの音楽?って」
「あー、それは嬉しいかも」
「そしてどこか変(笑)。でもその、ごつごつした感じが心地良いっていうか、
   だから何度でも聞ける」
「結構リズムとか色んな国から引っ張ってきていて、それが意図せず組合っちゃ
   った瞬間ってのがあったかな」

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「最近音楽を作っていて発明家の気分になるんだよね。何かと何かをくっつけて
   とか。作っている時の喜びって発明とか発見の喜びがまずあって、そして良い
   発明かどうかは、それが聞き手の生活に寄り添うかどうかで判断される。良い
   発明じゃなくて役に立たなければ、また別の発明を続ける、そんな事をやって
   る気がする。だから作ってる自分自身が楽しいってのがすごくある」
「今作を聞いて青柳君楽しそうだなって凄く感じるよ(笑)楽しそうに演奏して
   るなって(笑)それは単純にリズムの調子がいいって事もあるかも知れないけ
   ど。ああいう、お囃子とかって何故か気分が上がるよね?」
「うん、木津さんの太鼓の横でただ歌っているだけの時でも、ほんと気持ちのい
   いリズムをやってくれる。ああゆう良いリズムの横で歌う喜びって初めてかも
   しれないな」
「店で「まわし飲み」かけてると、お客さんが知らず知らずにリズムを取ってる
   もんね」
「木津さんを見てると、もっと新しい音楽が生まれる可能性があるように感じさ
   せてくれるんだよね」

「添田唖蝉坊(そえだあぜんぼう)ってのは?」
「知り合いの家の蔵に沢山本があるからって、頂いた本の中に添田唖蝉坊の自伝
   とかCDもあって。そのCDの中に「都節」も入っていたんだけど、それ聞いて
   すごくカッコイイって思って、歌の文句も洒落てるしさ、自分も親になったん
   だから歌ってもいいんじゃないかって(笑)」
「『親は子供の ヤレソレ 抜けがらじゃ』って凄い(笑)」
「そうそう、『威張りなさるな』とかね(笑)」
「『チョイト チョイト』とか『ヤレソレ』って面白いね。『親は子供の』と『抜
   けがらじゃ』の間に『ヤレソレ』って言葉が入るとちょっと力が抜けるってい
   うか、間が生まれる」
「いわゆるJ ポップなんかの歌詞然とした歌詞ってあるじゃない、そういうのっ
   て何かつまらないっていうか、みんな普段おしゃべりしてる時はもっといろん
   な言葉を使ってるのに、歌詞を考えるにあたって、なんか歌詞っぽくなっちゃ
   うあの感じ。使える言葉が決まってて、メロディにはめ込んでるだけっていう
   のが窮屈だなって。例えば古い童謡なんかでも面白い言葉があるしさ、普段使
   ってる言葉でもどんどん歌詞に入れてっていい言葉って沢山あるんじゃないか
   ってずっと思ってたんだよね。そういうのもあって、添田唖蝉坊ってのがカッ
   コイイなと。RAMで日本語の歌詞を書いた時に「おやじ」って言葉を使ったら
   周りが「おやじ」って大丈夫?みたいになった事があって、自分にっとっては
   奇をてらったつもりはなかったんだけど。これはまだまだやるべき事が沢山あ
   るなって」
「『おやじ』って演歌にはあるけどね」
「うん、昨日もある人に、『まつぼっくり』って言葉は日本のポップスで初めて
   使われたんじゃないですかって言われて。「唐津」って曲なんだけど、呉服屋
   の若旦那に案内された処のこととか、まつぼっくりが落ちて来たとかホント見
   たままを歌ったんだけど。まつぼっくりって可愛い言葉じゃない、まだまだ使
   える言葉って沢山あるなって」

「言葉のリズムってのがメロディとかに影響するって事はあるのかな?」
「やっぱり普段使っている言葉だからここで切ったらへんになっちゃうってのは
   分かるよね。『まつぼっくり』を『まーつ ぼっくり』としたら変だとか、だか
   らよく知ってる言語ってのが前提で当てはめてるのはあるかな」
「青柳君が言うように決まりきった言葉をメロディにはめ込めるんじゃなくて、
   音楽が言葉にもう少し寄り添ったらもっと違うものが生まれてくるのかも」
「うん、だからすごい基本的なことをやっているような気がして、リスナーの人
   達に書いた歌詞がわかるとか、本当にシンプルなコミュニケーションというか
   仕組み、それをやりたくて。声が聞き取れるようなミックスにするとか、聞き
   取れるように歌うとかね」
「唖蝉坊の「チョイトチョイト」とか昔の民謡とかの「あーソレソレ」みたいな
   のって聞いてる人も歌の中に参加できる余地っていうのがあるよね」
「うん、「場」がある感じ」
「そう、そうすると歌が開放されるっていうか」
「そうだね、みんなのものになるっていう」
「まあ、だから民謡になって歌い継がれていくのかもしれないけど、確かにそう
   いう意味ではポピュラーソングってのはちょっと息苦しい所があるのかも」
「だからその中で開放されるような良い言葉をポピュラーミュージックにはめて
   いけばいいのかもしれないけど、何か窮屈な歌が多い気がするよね」

「2曲で作詞をしている蜂飼耳(はちかい みみ)さんって人は?」
「彼女は現代詩の人で、中原中也賞ってのを取って注目されたんだけど、彼女が
   ある雑誌で現代詩の連載をやってるのを見て、わーなんだ、この人って思って。
   それである時に、「詩人が街にやってくる」っていうプロジェクトで新潟の小
   学校に行った時に初めて蜂飼さんと合って。みんなで順番に朗読したり、オレ
   はちょっと音をだしたりして。で、蜂飼さんの番になったら彼女がでんでん太
   鼓を取り出して、何百年も前の狂言の歌を歌いだしたんだよね。それが凄くか
   っこ良くて、なんだこの人って(笑)びっくりして。それから本を送って貰っ
   たりとか色々交流するようになって。何か言葉の感覚が自分にとってすごく新
   しい感じで、今の人でそういう風に感じる人って初めてだったから、詩を頼む
   んだったら蜂飼さんだなって思っていて」
「じゃあ、これはこの曲の為に書き下ろされた詩なんだ」
「うん、彼女もはじめての歌詞だったみたい」

「実はちょっと前に、店の常連のお客さんに「今度中国で日本語を教えるからな
   にか教材になるような日本語の歌ってないですか?」って相談されたんだ。そ
   れで『たであい』を紹介したら気に入ってくてたみたいで、今度新譜も出ます
   よって教えてあげて。それでその後に「まわし飲み」を聞いてみたら「ここに
   ある旅」のなかで「旅先をきめるときに あなたは サハラ わたしは ハルビン」
   って歌詞があったからビックリして、その常連さんは今度ハルビンに行くって
   聞いてたから」
「えー、すごい。偶然だね」
「そう、それをその方に話したら喜んでくれて「たであい」と「まわし飲み」を
   買ってってくれたんだ。今頃もしかして、ハルビンで青柳くんの歌がまわし飲
   みされているかもって思うと何かおもしろいなーって」

「何か不思議な縁の多いアルバムでね。スミン君と繋がったのもそうだし旅先で
   いろいろな出会いがあったりとか、だからある所までは自分がコントロールし
   たけど、ある所からは勝手に出来上がったっていう。そういうのって自分で後
   で楽しめるっていうか。自分でコントロールしすぎるとつまらない。」
「自分のした事を後で再発見出来るってのはあるよね」
「なんか最近、人が選んでくれた事とか決めた事に乗っかるってのが楽しい時が
   あって。歳もあるのかもしれないけど、自分で決めてばかりだとつまらないな
   って。何か決められてたりとか自分がコントロールできなかった事に意味が出
   て来てるような感じがして。例えば洋服なんかでも自分じゃ選ばないようなも
   のでも着てみたら意外と気持ちよかったりとか(笑)」
「そこの壁って意外と高いよね。人に作られた壁より自分で作った壁って」
「そうそう」
「そこを、ひょいっと超えて行ける人って、粋っていうか、カッコイイ」
「うん、きっと楽になるんだろうね。だから自分を崩してくってのを楽しみとし
   て生きるっていうのも面白いのかもしれないなー。やっぱり蓄積、蓄積できち
   ゃってるでしょ、例えば音楽の知識なんかでも、そうすると何か重たいという
   かさ」
「邪魔だよね」
「何にも考えなくてやれる部分がやれなかったりとか。一日のうちに一番大事な
   事って朝イチでやったりするだけど、夜になるとその日1日の蓄積がある。新
   聞読んだり、ひとに合ったり、音楽聞いたり。そんなことが自分のシンプルな
   所に色々付随してくるから夜になってくると何かもう一杯になってて。もちろ
   ん勉強になることも沢山あるけど、人生においても蓄積が邪魔になることって
   多いな、と最近は思ってるかもしれない。だから忘れたり崩しながら物をつく
   ったりしているかも」
「人にのるってのも崩しのひとつだよね」
「そうそう」

「ライブやるんだよね」
「うん、CAYで結構このメンバーが集まってアルバムっぽくできると思う」
「楽しそうだね、リトル クリーチャーズの新譜も出るんでしょ?」
「うん、11月に。もうすぐレコーディングに入るよ、曲もだいぶ出来て、
   これはまた真逆の世界いってるけどね(笑)」
「それは、それで楽しみ(笑)」

「いやー今日はどうもありがとう。また店にも遊びにきてね」

(2010年 8月15日)
PHOTO 齋藤雅子

「青柳君、何かお気に入りの音楽を教えて?」
「そーだなー、じゃあ、「まわし飲み」のヒントにもなった3枚を...」

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登川誠仁
「HOWLING WOLF」

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ALI HASSAN KUBAN
「 FROM NUBIA TO CAIRO」

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V.A.「SHANGHAI LOUNGE DIVAS」

img_aoyagitakuji.jpg■ 青柳拓次

テキスト、サウンド、ビジュアルを用いて表現するアーティスト。LITTLE CREATURES、ソロユニットのKAMA AINA、青柳拓次名義で音楽活動中。コトバのイベント「BOOKWORM」、レーベル「CHORDIARY」を主宰。 official web site >

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